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2012.08.10

JISC8955の適用限界と誤用

今年もまた台風のシーズンがやってくる.
毎年何枚の太陽電池が脱落・飛散していることだろう.どれも構造無設計あるいは構造設計ミスなのである.太陽電池メーカーは業者の施工不良のせいにするのが大好きだが,こちらで2006年~2007年にかけて,5機種の不審な住宅用架台キットを入手し外力計算の上で断面計算&FEM解析を行ったら殆どがNGまたはグレーであった.(太陽電池メーカーによる「抱き合わせ販売」の影響で1千万かかったよ.おかげで貧乏だ)

もちろん,事故物件の中には施工時にネジを締め忘れていたと疑われる案件もある.しかし第一,ネジ一本の増し締めを忘れたくらいで事故になるような設計はひどくおかしい.なんのロバスト性もないままに設計した架台が事故ったところで施工業者を責めるのは,アトリビューションエラーである.コスト低減と売上増大のためだけに静定梁を用いることもひどくふざけている.こうしたメーカーは部材消失感度をまるで考えていないのだ

計算書の段階からおかしいものも少なからずあった.外力計算の大前提であるモデル選定(外装材と構造骨組)が誤っていて,その結果,想定される風荷重を過小評価しているのである.

特に多いのが電技解釈が参照するJISC8955の誤運用だ.
JISC8955は,局部を避け屋根中央付近に太陽電池をマウントする場合の不静定格子梁型の架台に関する,いわば1454号構造骨組モデルに近い風力係数導出をしている.よって,広々とした屋根の中央にポツンと1~3kWのアレイを据えるような,極めて限定的なシーンでしか適用することが出来ない.それにも関わらず,追加的構造的対策をしないままに1458号のa'領域に食い込む設置範囲を設定する太陽電池メーカー,架台メーカーが少なくない.(さすがに1/2ルールを使っているのは見たことが無いが.)

実際とてもじゃないが,近頃の流行の低コスト型二本梁工法=外装材型は,局部設置には対応できない.まるで国内・諸外国の風工学モデルと合わないのである.(荷重指針やASCE・ASNZS・Eurocode・ISO4354を見よ)

にもかかわらず,業者は構造計算もせずに局部設置をするし,太陽電池メーカーはJISの1mルール(時にはそれ未満の周縁部オフセット)を”保証”している.しかし,保証したところで現実に飛散し人畜に危害を加えたらどうしようもない.保証とはあくまで私益的概念なのであり,利潤の論理に過ぎないのである.飛散した太陽電池の保証をしてもらったところで,その太陽電池のWind Debrisを食らった被害者のことを加害オーナーはどう思うだろうか.

長年太陽電池メーカーと架台メーカーにこの問題を言い続け,さらに5年前から外部講演でも言い続けてきたが,慣性の法則=惰性が働くのか,なかなか変わる様子が無い.こりゃもう,外圧期待か?そろそろ問題に気づく人が出てくるはずだ,と思ったら,建築学会と風工学会が動き出している.

サッシ業界やガラス業界といった外装材・帳壁業界や,瓦業界や金属屋根業界といった屋根業界が自主規制として厳しく1458号運用しているのに,太陽電池業界は甘ったれた緩和要求ばかりで一体どこを向いている?恥さらしである.
太陽電池は屋外にある以上,外部不経済がある.この外部不経済性は,他の建材と全く対等.いくら今をときめく太陽光発電だといっても,調子に乗ってたらだめだ.太陽電池の飛散は,個人の損失ではない.公害なのである.利潤は企業・業者,公害は国民持ちなんてトンでもない.さっさと自主規制行動を起こすべきである.

最後に具体的な提案.
昨今は,超局部,局部,準局部への設置は当たり前.お安くなったので誰もが屋根一杯につけたがる.だから,太陽電池メーカーや架台メーカー自らが業者や買い手に局部設置に対応した構造計算をしてやればいい.そうでなければ計算と設計のやり方を示せばいい.局部設置を禁止する現状のやり方はもっとも愚かしい.第一,禁止したところで業者とユーザーはやりたがる.そもそも禁止というパターナリズム(要するに特権者から弱者への強要)は市場経済インセンティブに対してまるで勝ち目がないのである.

次に具体的な技術方法について述べる.構造計算の際に用いる指針は1458号だろう.しかも,局部については壁面風圧力を加算する庇ルールで解くのである.仕様規定ならばせめて6点止めである.架台は不静定梁,かつ,固有周期を短くする方向で行く.現状,特に陸屋根架台では,風との共振でネジが緩んでいると思われる事故が少なくないからだ.風洞実験結果が今後次々と整理されてくるはずだがそれを待たずに,今売ろうとしているものについては1458号をミニマムとして対策すべきである.ルールが出来上がるのを待っていたらその間にも事故が増えるばかりだからだ.ここまでが従来の構造計算規定の取り扱いである.

そうはいっても,家電量販店をはじめ荒っぽい商売が定常化した住宅PV市場の一体誰が構造計算をやるだろう?ならば「やっていただく」方略を考えないとならない.PVの不幸は電技解釈46条(旧電技解釈50条)が構造計算規定(性能規定)しか規定してなかったことであって,仕様規定が存在しなかったことである.販売屋や工事屋など,どうしても構造計算をしたくない,出来ない人々が圧倒的多数である.これらの人々のために仕様規定を作ろうではないか.しかもこの仕様規定を初期設定とするのである.初期設定であればサボりようがなく,自動的に一定の安全が保たれる.ただし,同様の建売を数十棟と建築する場合などギリギリの安全性能を追求することによってコストダウンしたい輩もあろう.これらの者は従来通り,性能規定ルートとしての構造計算規定を選べばいい.大切なことは選ぶ自由を残すことである.そして選択を恣意にしないように仕様規定を作り,これを初期設定とするナッジを効かせることである.これが,先日論文に書いたことの主意だ.

8月 10, 2012 問題提起 | | コメント (7) | トラックバック (0)